英国が2050年までにネットゼロを達成することを約束している中、商業用不動産の所有者及び入居者は、法令上の最低要件を満たすために大きな変化に直面しています。主な疑問点として、誰がエネルギー効率向上の費用を負担するのか、家主と賃借人の間でどのように責任を分担するのか、そしてグリーン商業リース契約にはどのような条件が含まれるのかが挙げられます。
最低限のEPC要件とは何か?
英国グリーン・ビルディング・カウンシル(UKGBC)によると、英国の炭素排出量の25%は建築環境に直接起因しており、19%は建物の暖房、冷房、及び電力供給により生じています。
英国の最低エネルギー効率基準(MEES)では、民間の非居住用賃貸物件は、免除が適用されない限り、現時点でエネルギー性能証明書(EPC)の評価がE評価以上でなければならないと定めています。2027年4月からはC評価以上、2030年からはB評価以上が要求されます。
EPC評価は、建物の規模、設計、構造、築年数、冷暖房、照明、換気、断熱、エネルギー使用量、推定二酸化炭素排出量などを総合的に勘案し決定されます。
商業施設の所有者や入居者にとってネットゼロが持つ意味は?
商業施設のエネルギー・ベンチマーキングは、まずオフィスが対象となり、その後他の建物も対象となる可能性が極めて高いです。ベンチマーキングの実施は、建物所有者にとって、所有物件のエネルギー使用量を理解し、改善可能な点を特定するのに有効です。目標を設定し、他の建物と比較することで、実施可能な効率化施策を見出だし、EPC評価の向上に繋げることができます。
しかし、建物の改善に必要な資金の調達について、家主と賃借人の間で合意するのは容易ではないかもしれません。英国では、クリアリース契約の概念は、建物への投資コストはサービス料を通じて入居者から回収すべきことを意味します。商業用リースでは通常、家主が賃借人からメンテナンス費用をサービス料として回収することが認められていますが、ネットゼロを達成するために必要な工事は相当な額になる可能性が高く、通常のメンテナンス以上の改善が必要となるため、投資家である家主がクリアリース契約の概念を維持するためには、家主と賃借人の間で費用を分担する必要があるかもしれません。
UKGBCによれば、2050年時点のリース物件の80%は現時点で存在する建物であり、したがって、多くの建物に環境基準への適応を目的とした改修が必要になります。
新たな商業用不動産市場は発展するか?
一部の商業施設の改修は非常に困難です。そのため、既にエネルギー効率が比較的高く、さらに改善することが容易な物件と、複雑で改修に費用がかかり、それに応じて評価や利回りが考慮されるような物件とで層が分かれ、商業用不動産市場自体が二層化する可能性があります。
ネットゼロ目標が商業施設に入居する企業に与える影響は?
企業テナントは、この状況に慎重に対処する必要があり、サービス料の上限設定を検討するとともに、建物の環境性能の改善について家主と協力することに同意する、サービス料を通じて改善費用を拠出する義務を負うなど、一見無害に見えて自身が不利になる条項がないか、商業用不動産の専門弁護士に契約書を確認させるべきです。 このような入居者による契約締結前調査は、建物の現況を参照するだけでなく、リース期間中に必要となるネットゼロやエネルギー効率の改善内容を参照することで、より適切なものとなるでしょう。また、そのような工事の費用とは別に、関連する建物の状態によっては、家主が契約期間中に改善工事をする権利を行使することにより、建物の使用に関して混乱が生じる可能性があります。賃借人は、サービス料の負担やリース期間中に混乱が起きるリスクの顕在化を含む諸問題について考慮することをお勧めします。
他方で、賃借人がエネルギー効率目標を達成すれば、家主は賃料の減額に進んで同意するかもしれません。
ネットゼロ目標が商業施設に投資する企業投資家に与える影響は?
商業用不動産の購入を検討している投資家にとって、将来のEPC要件を満たすためにどのような工事が必要か、またその費用はいくらになるかを理解しておくことは不可欠です。大がかりな工事の実施とその資金調達のための明確な戦略が必要であり、同時に、そのような工事を、短期的及び中期的に、不必要な遅滞なく実施できるように、リース契約において、建築工事を目的に建物に立ち入る法的権利を留保しておくことが必要となります。
新しいリース契約には、エネルギー効率の改善にどのように対処し、家主と賃借人の間で費用をどのように分担するかを定めた条項を盛り込むべきです。エネルギー効率の改善により、賃借人は光熱費の低減という恩恵を受けると見込まれるため、家主は改修費用の負担を請求したいと考えるかもしれません。しかしながら、家主の投資価値を向上させる改修工事について、賃借人が費用を全額負担することに同意する可能性は低いでしょう。
また、家主は、改修工事を行うための建物への立ち入りの確保に取り組む必要があるでしょう。入居者が家主の立ち入りを許可することを義務付けられていない既存のリース契約では、この点が問題となる可能性があります。
また、賃借人がエネルギー効率を低下させるような態様での改築や使用ができないようにすることも必要になるでしょう。
いわゆる「グリーンリース」(green leases)は、様々なエネルギー効率対策に対応しています。賃借人が最低限のEPC要件を満たし、独自の環境・社会ガバナンス要件を遵守する必要性をより強く認識するようになれば、グリーンリース付き物件を提供することは、将来的に有利になるかもしれません。企業テナントは、将来的に、適切な環境への配慮の実績を示さなければならなくなります。そのため、より優れた環境性能を持つビルが市場で求められるようになり、賃料が高くなる可能性があります。
グリーンリースには、環境改善の可能性を探るため、賃借人に家主と協力することを求める条項や、家主がエネルギー効率を向上させるための工事を実施する権利を盛り込むことができます。
また、賃借人に対し、修繕義務やその他のメンテナンス義務を果たす際、または改築を行う際に、持続可能性のある資材を使用するよう求めることもできます。
既存のリース契約を持つ家主の場合、可能であれば、賃借人に拘束力のないステートメントを提案することができます。このステートメントには、どのような工事が予定されているか、協力方法、実施時期、立ち入りの手配方法、費用の処理方法などの詳細を記載することが可能です。
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