2023年10月26日、経済犯罪および企業の透明性に関する法律(Economic Crime and Corporate Transparency Act 2023)(以下「ECCTA」)が国王裁可を取得しました。ECCTAは、2022年に成立した経済犯罪(透明性および執行)法(Economic Crime (Transparency and Enforcement) Act)(以下「ECTEA」)を基礎とし、英国のコーポレート・ストラクチャーの悪用を防止し、経済犯罪に取り組むことを目的としています。本ニュースレターでは、ECCTAによってもたらされる主要な変更点についてご説明します。
ECCTAにより何が変わったのか?
ECCTAによる変更点は以下のとおりです。
• カンパニーズハウスに関する変更
• 新たな「詐欺防止不履行」(failure to prevent fraud)罪
• 海外事業体登録制度(Register of Overseas Entities)(以下「ROE」)に関する変更
• 企業の刑事責任に関する同一視理論(identification principle)に関する変更
カンパニーズハウスに関する変更点は?
ECCTAは、全ての新規および既存の登録された会社取締役、重要な支配権を持つ人物(People with Significant Control)、および登録機関に書類を交付する者の大半に対して、新たな本人確認要件を導入します。この変更の目的は、ビジネス上の意思決定や法の執行のための調査をサポートするため、カンパニーズハウスのデータの正確性を向上させることです。
本人確認には 2 つのタイプがあります。すなわち、カンパニーズハウスによる直接確認と、Authorised Corporate Service Provider(ACSP)による間接確認です。ACSPは、クライアントに代わって書類を交付する権限を登録官から与えられなければならず、基本的に、 登録官への届出、新規登記可能事業体の設立、および身元確認を行う仲介業者(intermediaries)または代理人(agent)として機能します。
これらの措置は、システム開発に加えて、新たな第二次立法(Secondary legislation)およびガイダンスを必要とするため、まだ施行されていません。すでに登録されている企業には、身元確認のための移行期間が設けられ、当該期間終了までに義務を履行しなかった企業には、刑事制裁や民事罰が課される可能性があります。移行期間の詳細については未定です。
新たな「詐欺防止不履行」(failure to prevent fraud)罪とは?
ECCTAにより、詐欺を防止することを怠ったことに対する新たな企業犯罪が導入されます。この新しい犯罪の背景には、詐欺を犯した組織に罰金を科し起訴する既存の権限を強化するとともに、これまで組織が起訴を免れてきた抜け穴を塞ぐという意図があります。
この新しい犯罪の下では、従業員または代理人が組織の利益のために特定の詐欺罪を犯し、組織が合理的な詐欺防止手続を取っていなかった場合、当該組織が責任を負うことになります。組織の指導者が不正行為を命じたこと、あるいは不正行為を知っていたことを証明する必要はないことからすれば、これは事実上、厳格責任犯罪といえます。
この犯罪は、2006年会社法の定義における「大企業」にのみ適用されます。違反のあった年の前会計年度において、(i)従業員数が250人以上、(ii)売上高が3,600万ポンド以上、及び/または(iii)資産が1,800万ポンド以上、のうち2つ以上の要件を満たす組織が大企業に該当します。
この罪で有罪判決を受けた場合、当該組織は上限なしの罰金を科される可能性があります。
海外事業体登録制度の変更点は?
3CSの過去のニュースレターで詳しく説明したとおり、ROEは、ECTEAに基づき、2022年8月に開始されました。ECCTAでは、開示義務の拡大やカンパニーズハウスに提出すべき情報の増加の増加など、ROEに変更が加えられます。ROEに影響するECCTAの規定はまだ発効していません。
例えば、ECCTAはECTEAを改正し、海外事業体が「独自の開示要件に従う」か否かにかかわらず、法人受託者を登録可能な受益権所有者として記録することを義務付けます。また、受託者は「登録を免除される」受益権所有者の範囲から除外されるため、一定の受託者兼受益権所有者は、適用された登録からの免除制度に依拠することはできなくなります。
現在、カンパニーズハウスへの提出が義務付けられている追加情報には、例えば、海外事業体が登記上の所有者である、対象となるすべての自由保有および/または借地権不動産の表題番号や、16歳未満の執行役員に関する追加情報などが含まれます。
同一視理論(identification principle)とは何か?どのように変更されたのか?
ECCTAは、「同一視理論」(identification principle)を修正することにより、企業の刑事責任に関する新しいテストを導入しました。従前は、「同一視理論」の下、会社は、犯罪の実行が、重要な時点で会社の支配的な意思であった人物に帰せられる場合にのみ刑事責任を負うとされていました。しかし、ECCTAでは、同一視理論の射程がシニア・マネージャーにまで拡大されています。ECCTAでは、シニア・マネージャーの一人がその実際のまたは見かけ上の権限の範囲内で行為している間に犯罪を犯した場合、会社はその犯罪で有罪とされる可能性があります。
この変更は、支配的な意思が事業のさまざまなファンクションに分散している現代的な企業構造を反映した変更です。(少数の取締役が事業全体を指揮する)小規模な企業内では支配的な意思を特定することは難しくありませんが、同一視理論は、大規模な組織には有効ではありませんでした。多くの場合、大きな組織では、意思決定は、事業のさまざまな領域にわたって重要な支配力を持つ複数の支配的な意思に分散しています。このような権限の分散により、シニア・マネージャーは、大規模な損害を与える権限を持っているにもかかわらず、会社の責任を問うに足る十分な支配力を持っていないとみなされるため、その隙をすり抜け、責任を問われないままであることが多かったといえます。同一視理論の射程が拡大されたことで、シニア・マネージャーがその権限を利用して経済犯罪を犯すケースを抑止することができるようになりました。
3CSにできること
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