近年、特に「ギグエコノミー」の台頭に伴い、ゼロ時間契約(zero-hour contract)の利用が大幅に増えています。この契約はどのくらいの仕事があるか分からない雇用主に対して柔軟性を提供します。またこの契約は、異なる委託を受けている個人により大きな柔軟性を与え、また個人が仕事を拒否することも可能となります。しかし、この契約では仕事をした時しか給料が支払われないため収入の確実性が欠如しており、また雇用不安もあります。個人の権利を大きく左右する雇用形態の問題もあります。
「ゼロ時間(zero-hour)」とはどのような意味ですか?
「ゼロ時間契約(zero-hour contract)」とは、雇用主と個人との間の多くの異なる臨時契約の種類を表すために一般的に使われる用語です。主な特徴は、雇用主が個人の最低労働時間を保証せず、仕事があるときに提供するということです。個人は、契約条件に応じて提供された仕事を引き受けるか引き受けないことをその時に決めることができます。重要なことは、雇用主は彼らが他の会社のために働くことを制限できないということです。ゼロ時間契約(zero-hour contract)における独占条項は禁止されているためです。
なぜ雇用形態が問題なのですか
個人の雇用形態には、従業員(employee)、労働者(worker)、自営業者(self-employed)の 3種類があります。誰がどのカテゴリーに属するかを正しく理解するにあたり、残念ながら法律はほとんど助けになりません。
純粋な自営業者(self-employed)にはほとんど権利がありません。安全衛生は守られており、差別を受けない権利は有しています。労働者(worker) には、年次有給休暇(annual leave)や最低賃金(minimum wage)を受ける権利など、自営業者(self-employed)以上の権利があります。従業員(employee)には、上記全ての権利に加えて、出産休暇(maternity leave)、整理解雇手当(redundancy pay)、そして重要なことに不公正に解雇(unfairly dismissed)されない権利など、最も権利を有しています。
形態はどのように定義しますか
近年のギグエコノミーでは、労働条件、給与、雇用保障に不満を抱く個人が、特定の保護を得るため自営業者(self-employed)の地位に挑戦する事例が目立っています。
雇用主と個人との間で合意した、あるいは契約書面に記録された内容にかかわらず、裁判所は雇用地位を決定する際に独自の判断基準を適用しています。
裁判所が雇用形態に関する紛争を解決しようとする場合には、2つの雇用形態基準が適用されます。
- 従業員(employee)地位を求める個人が示す必要のある「複数(multiple)」基準
- 雇用主の管理下にあること(制服着用、指示に従うこと、いつどのようにどこで働くかを命じられることなどによって示される)
- 他人に代替させる権利がなく、個人的に働かなければならないこと
- 例えば、自分自身が税金を支払い、乗り物を維持し、その出費を支払うなど、従業員(employee)地位を損なう要素は何もないこと
- 「義務の相互性(mutuality of obligation)」基準、すなわち雇用主が仕事を提供する義務およびこれに対応して個人が仕事を行う義務
Uberの運転手が起こした有名な訴訟で、控訴裁判所は、運転手はいつ働くかを自分たちで選択できるものの、実際には労働者(worker)であり自営業者(self-employed)ではないと判示しました。どのように予約や支払いが行われるかに関するUberの権限行使の度合い、および他人に代替させる権利が無いという事実から、裁判所は、運転手は実際には自営業者(self-employed)ではないと判断しました。運転手は、働かないという選択はできたため、従業員(employee)ではありませんでしたが、労働者(worker)として認定されました。
同様に、Pimlico Plumbersに対する訴訟では、個人的に仕事を行い、制服を着用し、会社が承認したサプライヤーから供給品を購入し、会社の車を運転しなければならなかった原告は、労働者(worker)であり自営業者(self-employed)ではないと判示しました。しかし、Deliverooに対する裁判では、運転手は自営業(self-employed)の請負業者であると認定されました。個人は代替を使うことがが認められており、重要なことに、同社は運転手が実際にこの権利を行使したことを証明できたのです。
個人の雇用地位を確認するための明確なチェックリストはありません。そのため、貴社が自営業者(self-employed)と称する者を仕事に従事させている場合には、常にアドバイスを受けることをおすすめします。そうしなければ、過去の休暇手当(holiday pay)、疾病手当(sick pay)、税金負債(tax liabilities)の責任を負うことになりえます。
ゼロ時間契約(zero-hour contract)の下ではどうなるのでしょうか?
ゼロ時間契約(zero-hour contract)では、雇用主は一定量の仕事を提供する義務はないため、同契約当事者は通常は従業員(employee)ではありません。しかし、仕事をする際に雇用主の管理下にあり、個人的に仕事をしなければならない場合、一般的には労働者(worker)となるでしょう。
ゼロ時間契約(zero-hour contract)の個人が従業員(employee)となることは可能です。非常に柔軟性ある契約で開始したかもしれませんが、時間の経過とともに、特定の日や所定の時間に働き、仕事のパターンが出現するように、しばしば状況は変化します。契約当初はそれを意図してなかったかもしれませんが、時間の経過に伴い仕事のパターンが規則的になることで、契約形態はゼロ時間 (zero-hour)であり個人が従業員(employee)でなかったとしても、従業員(employee)地位を得る可能性があります。
純粋な自営業者(self-employed)がゼロ時間契約(zero-hour contract)で働くことも可能です。例えば、自営業者(self-employed)の便利屋は、ゼロ時間契約(zero-hour contract)の下で多くの常連客から提供される仕事を引き受けても、自営業者(self-employed)のままです。
結局のところ、契約が実際にはどのように機能しているかに拠るのです。
留意事項
- まず、貴社のビジネスや個人に合った契約種別を考えましょう。いつどのような仕事があるのか分からないのであれば、ゼロ時間契約(zero-hour contract)は適切です。しかし、特定の期間に一定量の仕事があることが分かっている場合には、期限付き契約(fixed term arrangement)がより相応しいかもしれません。
- 殆どのゼロ時間労働者(zero-hours workers)はパートタイム(part-time)ベースで働いており、パートタイム労働者 (不利益取り扱い防止) 規則2020(Part Time Workers (Prevention of Less Favourable Treatment) Regulations 2000)により保護されています。つまり、ゼロ時間労働者(zero-hours workers)をフルタイム労働者(full-time workers)より不利に扱うことはできず、彼らにも訓練と昇進の機会に同等のアクセス権を与える必要があります。
- どのような仕事がどのくらいの頻度でゼロ時間労働者(zero-hours workers)に提供されるかを確認するべきです。定期的な仕事のパターンが出現しているか、労働者(worker)が従業員(employee)の地位を獲得する可能性があるか、については注意が必要です。
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