今回は、玩具業界のスタートアップであるCabo Concepts(以下「Cabo」)が、関連市場で支配的地位を有する玩具メーカー、MGA Entertainment(以下「MGA」)を相手取り、逸失利益に基づく損害賠償を求めた訴訟を取り上げます。Caboは、MGAが反競争的な排除行為に及んだと訴えました。MGAが、自社の人気商品であるL.O.L. Surprise! ドールを、CaboのWorldeez商品も取り扱う小売業者には供給しないと脅迫した、と訴えたのです。対してMGAは、小売業者に対し、CaboのWorldeezが自社のL.O.L. Surprise! ドールを詐称通用(passing off)しているとし、同社の対応の正当性を主張しました。

詐称通用(passing off)とは、英法上の不法行為(民事上の不正行為)の一種であり、ある事業者が、自社製品を他社の人気商品と誤認させるように表示する行為を指します。典型的には、類似のブランド、広告、パッケージを用いることで消費者を誤認させ、その結果、問題の商品を購入させる行為を指します。このような不公正競争に対する救済措置には、流通の差止めを命じる仮処分、損害賠償、利益返還、さらには問題製品の引渡しや破棄を命じる裁判所命令などがあります。

Bacon判事は、MGAの行為が支配的地位の濫用に当たることを認めましたが、最終的にCaboの損害賠償請求は棄却しました。理由は、Caboが、MGAの反競争的行為がなければCaboが主張するような利益を得られたと証明できなかったからです。Caboのマーケティング戦略は不十分であり、損失はMGAの行為によって生じたものではないと判断されました。

この大法官部(Chancery Division)知的財産訴訟部門の判断は、知的財産法と競争法が組み合わさることで、巨額の損害賠償を請求したり、それに対抗できることを示した重要な判例です。あわせて、支配的企業が競合を排除するために法的な脅しを使うと自らが違法とされるリスク、そしてスタートアップが「そのせいでどれだけ損をしたか」を証明することの難しさを浮き彫りにしました。

CaboとMGAの事案の背景

Caboは2017年にWorldeezを発売。同社は、成長を続けるコレクタブル・サプライズトイ(開けるまで中身が分からない玩具)市場でシェアを獲得することを目指していました。Worldeezは、小さなフィギュアをプラスチック製の球体に入れた商品です。Caboは、MGAのL.O.L. Surprise! ドールの世界的な成功を再現しようと考え、多額の資金を商品開発やブランド構築に投じ、大手小売店での棚スペース確保を狙っていました。

Caboは、Worldeezの発売は業界大手から直ちに反発を受けたと主張しました。MGAが大手小売業者に対し、もしWorldeezを取り扱うならL.O.L. Surprise! ドールの供給を停止すると脅したと訴えたのです。さらにCaboは、MGAの当該行為は、知的財産権侵害という虚偽の主張に基づいており、MGAの権利を守るためではなく、潜在的な競合事業者が市場に定着する前に排除するためになされたと訴えました。

MGAの行為に対する裁判所の判断

裁判所は、MGAが1988年競争法第II章の禁止規定およびEU機能条約(Treaty on the Functioning of the European Union)第102条に違反し、支配的地位を濫用したと認定しました。Bacon判事は、MGAの行為が正当な知的財産権の保護の範囲を超えていたと判断したのです。特に、供給を停止するという脅しは、Caboを市場から締め出すことを目的とした排除行為にあたるとしました。

また、Bacon判事はMGAの詐称通用(passing off)の主張を根拠のないものとして退けました。仮にMGAの知的財産侵害の懸念が正当であったとしても、Caboを市場の主要領域から排除する行為を正当化することはできないとしました。

Caboの損害賠償請求が認められなかった理由

MGAの行為が反競争的であると認定されたにもかかわらず、Caboの損害賠償請求は認められませんでした。裁判官は、MGAの排他的行為がなければCaboが主張する利益を得られたとは証明できないとしました。Caboのマーケティング戦略は不十分であり、提出された証拠によると、MGAの行為に関係なく、Worldeezは苦戦していた、とみなされたのです。

判決の影響

本件は、支配的企業が知的財産権を主張する際には十分な注意が必要であることを明らかにしました。知的財産権侵害の主張を競争排除の手段として用いれば、支配的地位の濫用と判断される可能性があります。
また、スタートアップにとっては、この判決により支配的地位の濫用を立証することだけが課題ではないことが明らかになりました。逸失利益の証明には、具体的で裏付けのある事業計画や現実的な収益予測が必要となります。

3CSにできること

3CSは、知的財産権および競争法に関する紛争について、あらゆる規模の企業をサポートしています。自社の権利の保護や、競合他社による攻撃的な行為への対処に際しても、お客様のニーズに合わせた明確で実務的なアドバイスを提供いたします。ぜひご相談ください。

Jonathan Cohen

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