長年にわたり、多くのレストラン経営者は、ビジネスコストを考慮しつつ、チップをいかに公正に扱うかという問題に頭を悩ませてきました。チップを全額スタッフに渡す店舗もあれば、そうでない店舗もあり、さらに「サービス料(Service Charge)」の扱いも曖昧で、顧客にとっても分かりづらいものでした。こうした混乱を解消するため、前政権は新たな法律を導入し、ルールの明確化を図りました。
2023年雇用(チップの配分)法(Employment (Allocation of Tips) Act 2023)は、チップの取り扱いに関する明確な規定を設けています。この法律により、レストラン経営者は配分の公正性・透明性・記録の保持に関して、より厳格な基準を守ることが義務づけられました。本ニュースレターでは、この法律で求められる主な要件と、公正なチップ配分の仕組み、さらに必要となるポリシーや記録の整備方法、そして違反した場合のリスクについて解説します。
チップとサービス料はスタッフへ全額支払いが義務に
新しい法律により、スタッフのチップ、心付け、サービス料を全額受け取る権利が保証されました。事業主がこれらの金額の一部をビジネスコストに充てることは、もはや認められません。控除が許されるのは、税金など法律で義務付けられたものに限られます。また、チップを最低賃金(National Minimum Wage)の一部として扱うことはできません。給与はチップとは切り離して、全額支払う必要があります。
この改正により、レストラン経営者は、カード手数料や器物破損の弁償などの名目で、チップの一部を差し引くような運用をしている場合は、それを直ちに廃止する必要があります。また、会計時に自動的に加算されるサービス料など、店舗側が管理するチップも、スタッフに全額分配しなければなりません。
公正かつ透明なチップ配分ルールの確立
チップはスタッフの間で公平に分配される必要があります。政府はその基準を示す法定行動規範を公表しており、レストラン経営者はこれに基づいて配分ルールを定めることが推奨されています。「公正(fair)」の基準は店舗によって異なる場合がありますが、採用する仕組みは明確で一貫性のあるものでなければならず、策定や見直しの際にはスタッフとの協議が求められます。
例えば、フロアスタッフに多く配分したり、個々の労働時間に基づいて配分したりすることも認められています。また、キッチンや裏方のスタッフも顧客体験に貢献しているため、配分の際には考慮すべきですが、必ずしも対象に含める必要はありません。重要なのは、配分の仕組みが公正かつ透明であり、関係するスタッフの意見を踏まえて策定されることです。
迅速な支払いと書面ポリシーの策定
チップは速やかに支払われる必要があります。支払い期限は、チップを受け取った翌月の月末までです。例えば、7月に受け取ったチップは、8月末までに支払わなければなりません。
また、チップを継続的に扱う事業者は、書面によるポリシー(方針)を整備しなければなりません。このポリシーには、チップの収集・分配・記録方法を明記し、従業員がいつでも閲覧できるよう、ハンドブックや掲示板などを通じて適切に管理しておく必要があります。
記録の保持と法的対応
レストラン経営者は、チップの金額および配分記録を3年間保存する義務があります。従業員は、自身の受け取ったチップの内容について、記録の開示を求めることができます。
もし従業員が「公正に配分されていない」と感じた場合、雇用審判所に申し立てることが可能です。審判所は未払い分の支払いのほか、従業員1人あたり最大5,000ポンドの補償金の支払いを命じることができます。また、違反は企業の評判を損なうだけでなく、従業員の離職率上昇にもつながる可能性があります。
3CSにできること
新しいチップ配分ルールを正しく理解し、実務に反映させることは容易ではありません。3CSでは、レストラン経営者の皆さまに対し、法令に準拠したポリシーの策定、公正な分配システムの構築、管理職向け研修の実施などを通じて包括的なサポートを行っています。本件に関するご相談は、ぜひ3CSまでお問合せください。




